犬や猫は赤ちゃんの時と成体でプロポーションはほとんど変わりませんが、ヒトでは、赤ちゃんは4頭身くらい、子供の時期は5~6頭身くらい、成人の頭身は7~8頭身というように変化します。
何故ヒトは生まれた時と大人とでプロポーションが大きく違うのですか。

 ヒトのプロポーションは何故変化するのか? と言う問いは、恐らく現在の科学を持ってしても解明することは難しいと思います。それは進化の過程が科学的に説明できるかという問いと同じです。例えば、ダーウィンの進化論が科学的に証明されたのか。また、エルンスト・ヘッケルの反復説(個体発生は系統発生を反復する)が証明されたのか。もちろん現代の科学を以てしても、ダーウィンやヘッケルの仮説は修正を繰り返され、現代流の進化論が構築されていますが、完全には解明されてはいないでしょう。まだ仮説の段階ではないでしょうか。したがって、仮説としてプロポーションの変化を説明すれば、<仮説1>:ヒトの進化の結果、脳およびその機能を発育・発達させるために、先ず脳システムの発育を優先させた。<仮説2>:脳機能の成就のために、思春期という時期を取り入れ、この時期に身体発育を優先させ、脳機能の充実を図った。<仮説3>:仮説1、2の結果、脳に関する要素は幼少期に発育を完了させ、その後、身体的要素に関する組織の発育がちょうど成人の時期に完了する。これら仮説を完全に証明することは現在の科学でも不可能に近いでしょう。しかし、ヒトのプロポーション変化は事実であり、この事実の現象を説明することは可能ではないかと思います。つまり、頭身が変化することは、脳の発育と身体の発育の相対的な違いが証明できれば良いわけです。ところが脳と身体の相対的な発育を示した論文がないのです。そこで、良く考えてみればScammonの発育曲線が登場するわけです。ヒトの発育は4つのパターンに分類されるというScammonの発育曲線は1930年にScammonが提唱した理論です。この理論によって脳と身体の相対的発育は、神経型パターンと一般型パターンで説明ができるわけです。しかし、実は今から85年以上も古い、科学以前の理論であり、Scammonの発育曲線自体に疑問が投じられることになります。
そこで、筆者はScammonの発育曲線を再検証し、新たにFujimmonの発育曲線を提唱しました。Fujimmonの発育曲線は基本的に3パターンから形成されており、一般型と生殖型を1つのパターンにしました。ここに至って、Fujimmonの発育曲線理論でプロポーション変化の事実は科学的に説明ができるわけです。さらに、筆者はヘッケルの反復説、個体発生は系統発生を反復する事実は、自然界でのフラクタル現象(自己相似現象)から説明できるのではないかと思っています。
 

(回答者)
愛知工業大学 教授 藤井勝紀