声と言葉とまなざしで

 ある雨の朝、混雑した池上線にベビーカーを押して若い白人の男性が入ってきた。1歳前後の男の子を前抱っこしている。湿度も高く不快な車内で、彼は何やら呪文のような言葉を息子にささやいていた。何だろう?と見ていると、子どもは、パパの目をニコニコしながら見て満足そう。10分ほど、彼は何種類かのわらべうた遊びで子どもをあやし、静かに電車を降りていった。朝からとても穏やかな光景を見せてもらえた。きっと彼は肉親から、こうやって育てられたのだろう。
 私は物語を語る活動をしているが、言葉の力に驚かされた体験がある。
 ある時0歳児のおはなし会でお母さん達にリクエストを聞くと「この子がしきりにブラッタタタ・・というのでそれを。」と、頼まれた。語り手の尾松純子さんが考案した手袋人形の5匹の子ブタだ。「1ブタ鳴くよブーブーブー・・5ブタは踊るよブラッタタタタ、ブラッタタ、ブラッタタ、ブラッタタタタ」言葉に合わせて五本指の子ブタを動かしていく。半年も前に一度演じたものだ。やっとふらふら歩き始めた子は半年前まだ赤ちゃんだったけれど、ブラッタタタタという言葉の命は、赤ちゃんの体の真ん中に確かに届いていた。
 また、4,5歳児のお話会でこんなこともあった。長谷川摂子さんの言葉遊びに「カボチャボチャボチャしぶきをあげりゃ、すいかスイスイにげてゆく」という一節がある。私が手のフリをつけて繰り返すと、ある子がカボチャボチャボチャで椅子から転げ、すいかスイスイで戻った。そのうちクラス全員が言葉に合わせてこの動作を繰り返したのだ。彼らは、言葉からのイメージを自然発生的に動作で表現して、語り手と一緒にこの一時を楽しんでくれた。命のある言葉を手渡すと子どもたちは、それを全身で受け止めてくれる。これからも、「生きていくことは楽しいんだよ」というメッセージを、声と言葉とまなざしで届けていきたい。
 

幼少年体育指導士会 監事 松野敦子