子育てにとってのリスクとは?

 昭和54年に当時の文部省(現:文部科学省)が出版した「子育ての中の基礎体力つくり」という著書の中の安全に関する記載に、「子どもは小さいけがを経験することによって、大きなけがから身を守るすべを覚えるものである」とある。
 これは幼少年期の運動遊びの本質を突く記述だと思うが、今、こんなことを堂々と国が言えるだろうか?けがをさせても良いと言っているのではなく、予測不能に動き回る子どもに対して、安全に配慮することは大人の義務であることは間違いない。
 ただ、腑に落ちないことは、同じ日本人の子どもに対して、同じ国の管轄機関が40年前の昭和の時代には忠告できたのに、今の時代は言えないと言うことだ。つまり、小さなけが程度なら負わせてでも、活発に遊ばせた方が良いというような表現は使用できないほど、行政、教師、保育者、メディアなどが責任を回避する表現で子育て情報を発信しているのだろう。
 しかし、実際は活発に遊べば遊ぶほど擦り傷や小さなけがを負いやすいのは事実だろう。ただ、それだけ活発に動いた子どもは心身の健やかな発達というメリットを得る。逆にけがを避けて室内遊びに没頭させると日々のけがはリスク回避できるが、経験不足から来るからだ、こころ、社会性の発達に悪影響(発達不全)を及ぼすという見えない、そして、後々(青年期以降)にしか分からないリスクが高くなることも忘れてはいけない。
 今の時代は、伝えなければならない子育て論が、大人の責任回避という事から表舞台では伝えられていないという事実を理解した上で、子どもにとって良い本質的な子育て論を展開する必要があるのかもしれない。
 

岐阜大学教授 春日晃章