R君の「ようい、ピッ」

 ごっこ遊びをしている子どもたちの様子を見たり、年少の子どもの世話をしている年長の子どもの口ぶりを聞いたりすると、家庭での様子が垣間見え、また日ごろ自分が子どもたちに言っている口癖に似ていて微笑ましくも驚かされます。
 園庭で子どもたちとサッカー遊びをしていたときのことです。3歳になってまもないR君が、私の横にやってきて、「ようい、ピッ」と言いました。実はそのとき私は、ちょっと疲れていたので皆から少し離れたところでさぼっていたのです。でも「ようい、ピッ」の声に思わず走り出してしまいました。R君は大喜びです。私の横にやってきては何度でも「ようい、ピッ」と言うのです。その度に私は走り出しました。R君はとどまるところを知らないかのように何度も繰り返すのです。私が根を上げてようやく終わりにして貰えました。
 保育者の真似をして「ようい、ピッ」と言ったR君、大人が走り出したから最初はびっくりしたようですが、繰り返すうちに見せたあの嬉しそうな表情からは、先生になった気分がしたのだろうなと想像できます。
 子どもたちは親や指導者など身近な人のすることをよく観察しており、観察したことを自分の身体に移しかえ、認知した世界を外に表します。それだけではなく真似をすることによって認知の仕方や内容を変容させ、対象を深く知るのです。見て、真似て、学ぶ子どもたちに、私たち大人は何をみられているやら。
 

代表理事 池田裕恵