君が夏を走らせる

瀬尾まいこ著
新潮社
 
 私は、長年保育者養成の短期大学に勤務してきました。多くの学生は、二つの資格取得を目指しますので、在学中の二年間に計4回の実習をこなすことになります。実習には、実習記録(日誌)が欠かせないものであり、省察を深めるためには、学生自身の「気付き」が不可欠となります。
 約10年ほど前のこと、実習後の振り返り授業をしていると、「私は、(物事に対し)気付かないようにしている」と、淡々と語る学生に出会いました。その後、このような学生が潜在的にいることを目の当たりにする中、以降の私は、担当教科や様々な機会を用いて、学生達の「気付き」を喚起し、その思いを言葉で表現してみることを促すようなりました。
 本書は、16歳のヤンキー少年が、2歳直前の女児の子守りを行う様子を描いた、瀬尾まいこ氏の小説です。五感溢れる様々な体験について、実に愛情あふれる細やかな表現がされており、例えば、“人見知りをされる”という人生初めての事象に対し得意な料理や運動あそびを駆使して乗り越える様子、女児の発する意味不明の言葉についての解釈、はたまた、公園デビューの様子など、随所に臨場感あふれる言葉が巧みに描写されており、女児の成長もさることながら少年の成長の様子にも釘付けです。
 私はこの秋から、学生の気付きを促す一助として、学生にこの本を紹介しています。どのような視点に気付き、その気付きを言葉を介し表現をするかを学ぶ良い機会になると感じています。
 
和泉短期大学
井狩芳子