子どもが育つ条件―家族心理学から考える

柏木惠子著
岩波新書
 

 著者は長らく家族心理学と発達心理学の研究をしてきた。家族心理学の研究に基づいて家族の様態や親子関係がどのように変化してきたのか考察し、それを踏まえて、発達心理学の知見を用いて、子どもの育ちを見る目、子育てのありようを考える手立てを示唆してくれる。
 子を産み育てる営みは人類の誕生以来営々と続けられてきたことだが、その様態は地域、時代、文化等によって様々である。それらの変化とともに親や家族の有り様、親にとっての子どもの意味、親の子どもへの期待、子ども観も変化する。
 近年の日本でいえば、子どもは「授かりもの」という意識から「つくる」ものという意識に変化し、少なく生んで良く育てる「良育」や、子どもによかれと思ってする「先回り育児」などが流布し、また子どもに対して、できるだけのことをしてやろうとする「親の愛情」「教育投資」が注がれる。その一方で、自己肯定感の低い子どもたち、有能感が低く自信が持てないという子どもたち、対人コミュニケーション不全の子どもたちの姿が話題になる。何故なのか。
 著者は、発達心理学の多くの研究成果に立脚して、子どもは本来「自ら育つもの」であるのに親がその認識に欠け、子どもの育つ力を奪ってしまっているのではないかという。
 本書は親に目を向けて書かれているが、保育者、指導者、研究者にとっても自らの視座を問う書である。本書の出版の5年後、著者は「おとなが育つ条件―発達心理学から考える」を著している。合わせて読み進めたい書である。
 

代表理事 池田裕恵